ステンレスの切削加工における注意点と加工事例について
ステンレス鋼(英: stainless steel)とは、鉄に一定量以上のクロムを含ませた合金鋼です。クロム含有量が10.5 %以上、炭素含有量が1.2 %以下の鋼と定義されています。最大の特徴は、”ステンレス”と呼ばれるように、”腐食しにくい”ということです。JIS規格ではSUS〇〇〇(〇は数字やアルファベット)のように、アルファベットと数字でそれぞれの材料が定義されています。例えば、SUS430であれば、「サス・ヨンサンマル」と呼びます。このSUSは、Steel Use Stainlessの略語で、”サス”と日本語読みで呼ばれています。
ステンレス鋼の種類は多岐にわたり、加工内容や用途・目的によって最適なものを選ぶことができます。一方で、目的に応じて適切な種類と加工方法を選択するためには知識と経験が必要です。
本記事では、ステンレスの特徴や切削加工する際の注意点などについてお伝え致します。
ステンレスの特徴
耐食性が高い
ステンレス鋼はクロムを加えた合金鋼です。このクロムの働きにより、表面に不動態皮膜が形成され、金属本体を保護しています。ステンレス鋼の腐食に対する耐性(耐食性)の源はクロムといえます。そのためステンレス製の製品は寿命が長く、修復・交換の頻度を少なくすることができます。
高強度
ステンレス鋼の機械的性質の多くは、「熱処理」により大きく変わりますが、鉄より強度を高くすることが可能で、強度が求められる場面で多く使用されます。建築・土木分野では構造物や建造物の基礎や骨格にも使われます。
耐熱性が高い
ステンレス鋼は耐熱性に優れているため、高温下での設備に多く用いられています。一般的に使われるステンレス鋼であるSUS304という材料は、高温での強度が高く、800℃でも高い残存値を示すなど優れた耐熱性能を有しています。
熱伝導性が低い
ステンレス鋼は、金属の中でも熱伝導率が低い素材です。熱伝導率は、金属結晶中の自由電子の動きをクロムやニッケルが邪魔するために小さくなります。一般的なステンレス鋼であるSUS304の熱伝導率は、16.0(W/m・K)です。
ステンレスの材質と特徴
JIS規格では65種類のステンレス鋼が規定されています。大きな分類としては次の5系統があります。
1. オーステナイト系ステンレス
2. マルテンサイト系ステンレス
3. フェライト系ステンレス
4. 二相系(オーステナイト・フェライト)ステンレス
5. 析出硬化系ステンレス
このようにステンレス鋼と言っても、実際には多様な種類が存在しています。特性も用途に応じて多様化しており、耐食性がより高い鋼種、高強度な鋼種、磁性を持つ鋼種、非磁性(常磁性)の鋼種、極低温でも劣化しない鋼種などがあります。
1.オーステナイト系ステンレス
代表的な鋼種:SUS304、SUS316
一般的に延性および靭性に富み、深絞り、曲げ加工などの加工性に優れています。さらに耐腐食性も優れ、低温、高温環境における性質も良好です。これらの優れた性質のため、用途は広範囲にわたっており、家庭用品、建築用、自動車部品、化学工業、食品工業、合成繊維工業、原子力発電、LNGプラントなどに広く用いられています。
また強度や加工性、硬化性、耐腐食性、耐熱性、などの特性が異なる材料の種類が多く、必要とする特性を持つステンレス材の中から自由度をもって選択することができるでしょう。
2.マルテンサイト系ステンレス
代表的な鋼種:SUS403、SUS410系
焼入れにより硬化するので、成分と熱処理条件を選ぶことにより様々な性質が得られます。高強度、耐食・耐熱性が必要な機械部品、例えばブレーキディスク、シャフトなどに使用されます。
特に、炭素含有量の多い材料は耐磨耗性に優れ、SUS420系は外科用器具等に用いられます。また、最高の硬度を有するSUS440系は軸受、ベアリングに使用されます。
3.フェライト系ステンレス
代表的な鋼種:SUS430系
熱処理により硬化することがほとんどなく、軟質状態で使用されます。また、SUS304系より一般用として広く用いられています。例えば厨房用品、建築内装、自動車部品、ガス・電気器具部品などで使用されています。
こちらも、SUS304系と同様、要求特性により様々な材料の選択肢があります。加えて、近年の材料開発により、SUS430LXなどの耐食性、成形加工性のより優れた鋼種が豊富になりました。
そのほか、オーステナイト系とフェライト系の両方の性質を併せ持つ、SUS329系のオーステナイト・フェライト系ステンレスや、高価なSUS660系の析出硬化性ステンレスがあります。
ステンレスの加工
適切なステンレス鋼を選択することによって、用途に応じた加工が可能になります。しかし、ステンレス鋼は難削材と呼ばれ以下のような特性により切削加工が難しい素材です。
・ステンレス鋼は熱伝導性が低く、切削加工時に熱がこもりやすいため、工具の焼付きやかじりを起こしやすいです。
・加工中に硬さが増す加工硬化と呼ばれる現象により、工具を破損しやすくなります。
・工具との親和性が高いため、切削加工時に発生する切り粉が刃物に溶着しやすく、他の金属に比較して加工精度を出すのが困難です。
このようなステンレスの特性を完全に理解し、豊富な経験と優れた加工技術が必要になります。
ステンレスを加工する際のポイント(注意点)
ステンレスの多くの種類の中から適切な材料を選択する
ステンレス鋼は多くの種類があり、目的に応じた適切な材料を選択する必要があります。一方で、ステンレス鋼の名称はJISで規定されていますが、規則性があまりなく、非常にわかりにくいため、経験が少ない方にとってはどの材料を選定してよいかわかりにくくなっています。よって、最初はステンレス材料の選択をする際は、JIS規格の内容をしっかり確認しましょう。また、特殊な用途でステンレス材を使用するケースは、材料メーカーや仕入れ商社などに適切な材料を提案してもらうとよいでしょう。
尚、当社では試作品のステンレス材については、材質の切削性の良いSUS303を使用することが多いです。お客様のご要望によっては、SUS304やSUS400番台、SUS600番台などを使用します。
ステンレスの種類によって加工方法を検討する
ステンレス鋼の熱伝導性の低さを補うために、適切な切削油などのクーラントを選んで温度が高くなりすぎないように調整する必要があります。また、強い力がかかると、硬くなる特性を持つ種類があるため、工具が破損しないように、切削加工の内容に応じて切削速度の調整やバイトの選択が重要になります。
当社では、SUS304やSUS400番台、SUS600番台などを使用する際は、切削性の悪さや反りの発生を考慮して、加工速度をやや低くしたり、切込み量を少なくしたりします。尚、切削性が悪いと工具の摩耗も速くなるため、その分加工単価が上がります。
当社のステンレスの切削加工事例のご紹介
製品名:携帯電話カバー
材質:SUS303
加工のポイント:
リバプールFCの優勝時の記念で計画された、高級携帯電話のカバーの試作品となります。高精度が要求された製品の試作です。
ボタン部分や画面の箇所で嵌め合いがあり、製品が反ってしまうと入らなくなってしまいます。材質はSUS303を選定しましたが、カバーの肉厚が薄く反りの影響を考慮して加工する必要がありました。負荷を与えないような加工治具の製作や、切削油の選択、エンドミルの種類にも気を付けながら加工しました。
その他の加工事例についてはこちら「実績紹介」をご覧ください。
ステンレスの切削加工はバンテックにご相談下さい
バンテックではステンレスの切削加工の豊富な経験・実績が多くあります。
お客様のご要望に応じて、様々なステンレスで切削加工が可能です。他社ではお断りされるような難加工の実績もあります。
自社で設計・デザインも行っているため図面のない状態からのご相談も大歓迎です。
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